脱クロム・塩・酸性の環境に優しい革の開発
令和4年度皮革産業振興対策事業費補助金にて脱クロム・塩・酸性の環境に優しい革の開発に取り組みました。
一般的に9割以上の革はクロム鞣剤によって製造されているため、最終処分等で問題になっています。SDGs(持続可能な社会)のためにもクロム革の様な風合いの革をクロム鞣剤(重金属)などを使用せず開発し、革製造の簡易化及び普及に努める事が今回のテーマでした。その際に使用した鞣し剤が『グラノフィンイージーF-90』です。
グラノフィンイージーF-90は、世界的皮革薬剤メーカー(スタール社)にて製図されています。
身体に認知済みの危険有害性もなく、無機物も使用していないのでクロム革よりも最終処分が容易である「地球環境に優しい」皮革鞣剤です。
従来通りの工程にてクロム革を製作する場合、下記の工程(表1)を行うことにより皮から革へ昇華します。
クロム革を製作する際、使用する主な薬品:クロム鞣し剤、ぎ酸、硫酸は取り扱いが危険であり、使用の際はより注意し作業をしないといけません。1回の鞣しにて牛、馬皮を100枚鞣すのに必要な薬品はクロム鞣し剤120kg~160kg、ぎ酸10kg、硫酸20kgです。
この作業を25回/1ヶ月行いますのでクロム鞣し剤3,000kg~4,000kg、ぎ酸250kg、硫酸500kg使用する事になります。
(表1)クロム鞣し剤による鞣し(ピックル~鞣し)工程 -脱灰後-
※1lot/100枚にて作業していることを想定し算出。 | ||||
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100枚/約2,000kgにて薬品使用数は計算。 | ||||
作 業 名 | 藥品使用量/% | 使用量/kg | 薬 品 名 | |
ピックル | 80 | 1,600 | 水20℃ | |
8〜10 | 160〜200 | 塩(塩化ナトリウム) | ||
0.2 | 4 | 脱脂剤 | ||
上記の薬品を投入後、10分間 | ||||
追 加 | 0.5 | 10 | ぎ酸 | |
1 | 20 | 硫酸 | ||
上記の薬品を投入後、120分間回転 | ||||
その後、1日漬け込み放置 | ||||
漬け込み後20分回転 | ||||
作 業 名 | 藥品使用量/% | 使用量/kg | 薬 品 名 | |
追加 | ||||
鞣し工程 | 6〜8 | 120〜160 | クロム鞣し剤 | |
30分回転 | ||||
追加 | 0.5 | 10 | 鞣乚製間加脂剤 | |
480分~540分回転 | ||||
追加 | 1.5〜1.8 | 30〜36 | 重曹 | |
30分毎に5回分注 | ||||
最終pH=3.6 浴温度37~38°C | ||||
追加 | 0.1 | 2 | カビ止め | |
30分回転 | ||||
その後、1日漬け込み放置 | ||||
水洗い、流水洗い | ||||
取り出し |
<表1> ピックル工程の説明に関して
クロム鞣しにおいてクロム鞣し剤を皮に浸透させる為にまず pH を約3にする『ピックル』という工程を実行。しかし皮は酸性域では膨潤※してしまい、その後の工程にて使用する薬品等の浸透を阻害してしまう。
※弾性のあるゲルが溶媒を吸収して体積が増加する現象。
脱灰後のpHは8~9ありpHを下げる為、ぎ酸及び硫酸を投入する。


鞣し剤『グラノフィンイージーF-90』を使用し試行錯誤した結果、先程の3点の薬品を使わずに革へと昇華する事が出来ました。
『グラノフィンイージーF-90』を使用した工程(表2)を下記に記載。
(表2)グラノフィンイージーF-90による鞣し工程 -脱灰後-
※1lot/100枚にて作業していることを想定算出 | ||||
---|---|---|---|---|
100枚/約2,000kgにて薬品使用数は計算 | ||||
作 業 名 | 藥品使用量/% | 使用量/kg | 薬 品 名 | |
脱 脂 | 200 | 4,000 | 水20℃ | |
0.2 | 4 | 脱脂剤 | ||
水洗い | ||||
鞣し工程 | 50 | 1,000 | 水20℃ | |
8〜10 | 160〜200 | グラノフィンイージーF-90 | ||
上記の薬品を投入後、360〜480分回転 | ||||
その後、1日漬け込み放置 | ||||
その後、回転。浴温度を50℃まで上げる | ||||
温度が上がり次第、120分回転 | ||||
水洗い、流水洗い | ||||
追加 | 0.1 | 2 | 除鉄剤 | |
0.1 | 2 | カビ止め | ||
その後、1日漬け込み放置 | ||||
翌日取り出す |


今回の事業において事業計画書<表3.4>のようにクロム鞣し剤、ぎ酸、硫酸またピックルという工程も省けるようになったので塩(塩化ナトリウム)を使用することが、無くなりました。
その結果、作業工数を省くことができたことと、有害な薬品を使用しない事により、安全な作業工程の確立へと近づいたと言えるでしょう。その後、兵庫県県立工業技術センター皮革工業技術支援センター 上席研究員である松本 誠 様のご協力のもと今回開発した本革のクロム含有量に関して試験を実施しました。(牛7種、馬1種) 試験の結果、全ての革においてクロム含有量が0.1%未満(検出限界以下)となりました。
<試験方法:クロム含有量 JIS K 6558-8-1>

写真の通り、グラノフィンイージーF-90鞣し革はクロムが入っていないので混酸で熱分解すると液体が透明になり、クロム含有革は同じ処理を行うと黄色い液体(六価クロム)となります。
(表3)鞣し工程におけるクロム鞣し剤の使用量
(表1)より抜粋 | ||
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薬品名 | 使用量/kg | 25日使用した時の使用量/kg |
クロム鞣し剤 | 120〜160 | 3,000〜4,000 |
(表2)より抜粋 | ||
薬品名 | 使用量/kg | 25日使用した時の使用量/kg |
クロム鞣し剤 | 0 | 0 |
結果:グラノフィンイージーF-90を使用することにより、クロム鞣し剤を使用せずに鞣すことが可能
(表4)ピックル工程における薬品(塩、酸)の使用量
(表1)より抜粋 | ||
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薬品名 | 使用量/kg | 25日使用した時の使用量/kg |
塩(塩化ナトリウム) | 120〜160 | 3,000〜4,000 |
ぎ酸 | 10 | 250 |
硫酸 | 20 | 500 |
(表2)より抜粋 | ||
薬品名 | 使用量/kg | 25日使用した時の使用量/kg |
塩(塩化ナトリウム) | 0 | 0 |
ぎ酸 | 0 | 0 |
硫酸 | 0 | 0 |
結果:グラノフィンイージーF-90を使用することにより、ピックル工程を削除
工数の削減及び薬品の使用削減により、作業時間の時短及び工場環境の改善につながる
今回の開発によって、グラノフィンイージーF-90が地球環境に優しい鞣し剤であることを確認することができました。
詳細についてはお問合せフォームからご連絡ください。
※今回の事業に携わっていただいた丸太産業様、金丸油化工業株式会社様のご協力のもと開発を円滑に進行する事が出来ました。